09年 春の全国研究集会・第21回総会

     京都・亀岡「湯の花温泉」で開催  09.5.10〜11

      山本守之先生の講演などで熱心に勉強 113名が楽しく学習と交流 

 全国税制懇話会「09年春季全国研究集会・第21回総会」は、5月10日(日)〜11日(月)の二日間、京都・亀岡「湯の花温泉・渓山閣」で開催しました。参加者は113人(内、女性17名)で、近年では最高でした。

 初日は午後から、メイン講師の山本守之先生が「平成21年度税制改正の概要と税制改正の基本問題」と題して、2時間半の講演をしました。講演を聴いた参加者は「いつもながら、山本先生の話は、税法や通達を鵜呑みにとらえるのではなく、世の中の良識を物差しにしながら批判的に見る。そして財界や国税庁の幹部等とのエピソードを交えて解説するので、聞く方はわかりやすく、おもしろい」、「メリハリが効いた内容で、大変よかった」に代表されるように、好評でした。山本先生は、今年3月満76歳、喜寿を迎えられたとのこと。今年もお元気な姿を私たちに見せてくれました。
 
    全国税本部・八代副委員長が「現場からの報告」

 初日、山本先生の講演に続いて、全国税労働組合本部副委員長の八代司さんから「税務行政を取り巻く環境の変化と執行体制」と題した、税務の第一線からの報告がありました。国税庁は、従来の調査、相談、指導、広報の4本柱から、「調査・徴収」一本に絞り、電子申告の普及・相談室の廃止・申告相談や電話相談事務など税務行政の税理士等への下請け化・内部事務の一元化などのあらゆる施策を、執行体制を強化するための施策に結びつけ着々と進めている実態が報告されました。「現場の実態の一端がよく分かった」との声が聞かれました。

    夜は恒例の大懇親会

  第一日目の夜は、恒例の懇親会です。百十余名が一堂に会す懇親会は、税制懇ならではの壮大さ。舞妓さんも登場し、各テーブルを回っての写真撮影も行われたり、各ブロックごとの紹介もあり、なかなか盛り上がりました。

 
    それそれの実践報告も大好評でした

  二日目は、会員からの実践報告として、堂本道信会員(近畿)から「公益法人の収益事業課税について」、本川國男会員(東京)から「最近における税務調査と質問検査権の諸問題」(別項に掲載)、宮澤義雄会員(関信)から「最近の税務行政の特徴的問題(関東信越国税局)」と題した報告がそれそぞれありました。これらの報告は、「文字通り実践に裏打ちされた豊かな内容があり、大変実務の参考になる」、「もっと詳しい資料がほしい」といった声が聞かれ、これまた好評で、「実務に強い税制懇」を印象付けました。

  
    第21回総会で方針・予算・役員等を承認

 全国研究集会終了後、同会場において全国税制懇話会第21回総会を開催しました。総会では、経過報告、今後の活動報告、決算・監査報告、予算を全会一致で承認。ついで、新役員体制(税制懇の組織と活動をご覧ください)を承認し、向こう1年間の活動をスタートしました。なお、開催期間中に2名の新規入会の申し込みがありました。二日目の正午に総会を終了し、散会。参加者は「保津川下り」などの観光も含め、帰途につきました。


   

  最近における税務調査と質問検査権の諸問題

                                                   平成21年5月10日

                                                      税理士 本川国雄
T 質問検査権をめぐる税務当局の動向

(1)    経済社会の高度化、国際化、広域化や国民の権利意識の高揚の中で訴訟社会の到来を意識しており、執行税制のあり方(権限強化策・・非協力事案への対応、罰則の研究、資料徴求権の法制化)が検討されている。

参考 東京法務局長の税大投稿、税大論叢斎藤論文、論点整理など

(2)    その対応策として法務部創設(案)、審理部門の創設、審理専門官の増員により審理事務体制を強化するとともに、不服審判所制度の改正と相まって課税部幹部はここ1〜2年統括官会議において、「訴訟に耐えられる調査」「説明責任を果たした課税処分」を強調している。

(3)    税務調査に係る各種研修教材の発行

@     国税庁課税部審理室は平成16年から年1〜2度「調査担当者のための重要判決情報」を発行。

A     東京国税局課税第1部国税訟務官室は「調査に生かす判決情報」(現在 号)

B      東京国税局課税課ごとに「00課税課情報」を発行

C      東京国税局課税総括課「課税部情報」

D      東京国税局課税第1部個人課税課「調査事務の概要」H18年7月

E      その他  別紙のとおり

(4)   質問検査権に係る研修教材の発行

@      「調査における法律的知識」(若手職員向け、漫画仕立て)東京局法人課税課      

   A 「質問検査権の概要と調査手続き関係Q&A」(調査権限、調査手続き関係)

    東京局個人課税 H18年1月

 B 「調査審理研修資料」(事前通知、税理士への事前通知、調査権限、現況調

査に関する諸問題、証拠書類の収集・保全、調査審理関係法規等)東京局個人課税課 H19年8月

 C 「平成20事務年度調査審理研修資料 調査審理Q&A」(事前通知画慨論、調査権限、現況調査に関する諸問題、証拠資料の収集・保全)東京局調査指導特官・審理専門官 H20年8月

(5)  調査体制の変更か

@      平成20年度の調査の重点に、はじめて署の調査部門の活性化、調査力のある職員の育成、局の課税総括課・署の一般部門の強化をあげている。

     平成18年6月東京派遣監督評価官室が発表した「調査事務の現状と課題」には、機能別調査体制はその一方で、質量両面において署一般部門の空洞化を招いていると述べ、税務調査の基幹をなす署一般部門の調査の充実が、今後の「適正公正な課税」には欠かすことができないとしていることに一致する。また、世代交代に伴う、職員構成や気質等の変化も調査事務に影響を与えているとし、系統的な調査ができる職員の低下や、上席等のベテラン職員のマンネリ化やモチベーションの著しい低下、若手職員の調査に対する意識の希薄化・淡泊な取り組み姿勢等が表面的な調査を指向させていると指摘し、その改善が急務になっていることがうかがえる。しかし、実態は、方針をぶち上げるだけで、具体策は見えてこない。

A      本年度から資料調査課の「署への指導事案」は廃止となり、今後は同課が単独で調査をすることになる。上記@と料調が一昨年から従来の無予告現況調査一辺等から一定分事前通知を行っていることから次のことが想定される。

 第1に長い間料調方式(無予告現況調査を中心とした集団的、強権的調査手法)に対する納税者からの批判や行政監督局の勧告への配慮と内部的には料調方式による弊害(系統的調査能力の低下、説得能力の欠如など)の改善を視野に事前通知を前提にした本来型の調査手法への転換。

 第2に従来の料調方式を署の特別調査部門(班)、特官部門、局課税総括課主導の広域・横断的・機能別調査に肩代りし、その調査手法を踏襲。

(6)新人事制度の導入

   国家公務員法の改正により、平成19年76日から2年以内に現行の勤務評定に代わり新たな人事評価(成績主義の人事考課制度)実施される。国税庁は平成20年9月16日から3ヶ月間「リハーサル試行」実施した。評価内容は「能力評価」と「業績評価」で構成され、職員は業務目標を設定し、業務を遂行し、自己申告をする。それをもとに上司は5段階評定(S.A.B.C.D)し、評価の悪いC,Dについては、期末に面談により評価結果が通知されます。その結果評価が悪いというだけで、昇給停止・降格・賃金カットされることになる。現時点では数値目標は出さないとしているが、人事評価を梃子にノルマ主義や増差・件数による「税とり競争」が更に激化し、当然、強権的で不当な調査が横行することが予想される。

   (注)IRSの人事評価制度の導入の必要性・・羈則裁量にしたがって税務調査や課税処分が進められることを税務職員の人事評価の方法を通じて間接的に担保している。(中村芳昭教授論文、2007/8今日における質問検査権の諸課題p20、21)

U 税務調査の現状

1 はじめに

国税庁は、従来国税庁の使命である「指導・相談・調査・広報」の四つの柱を平成15年から「調査・徴収」に変更してきました。その背景には経済社会の高度化・国際化・IT化等による複雑化や、相次ぐ庶民大増税による納税者数の増大、小さな政府論による税務職員の不足等の複合的要因により、接触割合(調査件数)が大幅に減少したことにあります。当局はこのままでは課税の公平、コンプライアンスが維持できないとして、調査事務の確保を至上命題にした事務運営を行っています。

 そのため国税庁は、平成15年以降、内部事務の一元化や調査体制の変更等の様々な試行と事務のアウトソーシング化を推し進め、平成21年に機構改革を行い、平成22年度から実施するとしています。

2 平成20年度の事務運営の特徴

 (1)メリハリのある事務運営として、@内部事務の一元化、A相談事務の廃止、B事務系統の横断的広域的事務の遂行を挙げています。特に内部一元化では平成21年7月から全国一斉に実施され、昨年10月24日から署・局の相談室は廃止、11月4日から署における税務相談は電話相談集中センターに回され、個別相談は実名・予約制になり、税理士の相談は原則受付けないことになりました。このように、内部事務や相談事務等の納税者へのサービス業務を切り捨て、調査事務日数の確保が最重点に打ち出されています。

(2)税務調査の重点として、@納税者のコンプライアンスの向上、A署の調査部門の活性化、B調査力のある職員の育成、C局の課税総括課、署の一般調査部門の強化が挙げています。特に当局は調査能力の低下やベテラン職員のモチベーションの低下と若手職員の調査への淡白さを危惧しており、その改善が急務になっているようです。また、本年度から資料調査課の「署への指導事案」は廃止になり、今後同課は単独で調査をすることになります。

3 平成20年度の調査事務の特徴

  (1) 平成19年度の調査実績(東京国税局)

@ 個人課税では実地調査件数がH17年度41,998件に対し、19年度は30,493件に留まり27.4%減少しています。一方実地調査のうち着眼調査はH17年度7,609件に対し19年度は8,362件で10%増加しています。即ち調査総数は減少していますが、小規模の消費税事業者や中低階級の者を中心にした調査に力点を集中していることが特徴です。

A 法人課税では実地調査件数がH17年度43,566件に対し、19年度は45,019件で3.3%の増加に留まってしています。しかし、実地調査のうち重点項目調査はH17年度11,217件に対し、19年度は16,898件で50.6%増加しています。これは、従来(H18年度まで)実地調査のうち同時調査と重点項目調査の割合を73としていましたがH19年度から55に変更し、個人課税同様に小規模で調査しやすい法人調査を増やし、接触率を高めようとしているのが特徴です。

(2) 平成20年度の調査の重点

@ 個人課税では、「高額・悪質」重点と簡易な接触の二極化を図り、簡易な接触については従来の申告審理後の事後処理、着眼調査、無申告者や中低階級者に対する接触を強めるとしています。

 重点調査業種に医業の全診療科目とはり師・きゅう師、柔道整復師、あんま・マッサージ・指圧師(いずれもH15年から同様)が指定されています。注目業種には、資源再生業種、廃棄物処理、人材派遣、犬猫医、その他獣医が指定されています。

A 法人課税では、同時調査と重点項目調査の割合を55にし(本格的にはH20年度から)、一法人に対する調査日数を減らし20%調査件数を増加させたいとしています。その結果調査官一人当たり56件の増加が見込まれています。

 重点調査業種には、不動産業、パチンコ、パチンコ関連業種が指定され、注目業種には、情報サービス、建物サービス・警備・人材派遣・職業紹介、医療保険、医療関連サービス、ラブホテル・モーテル、電子取引、ペット産業・健康関連業、対アジア取引、シルバーサービス、鉄鋼・非鉄金属関連が指定されています。

(3)平成20年度の「特留事項」に見る調査対応の変化

平成19年度から初めて個人課税部門、法人課税部門の「特留事項」に調査における手続きについて、「納税者の理解と協力を得て行う必要があることを十分認識し、適正かつ適法に調査を実施する」と明文化され、全管統括官会議において注意を促がしています。

V 最近の調査実例にみる諸問題

  (1)   最近における質問検査権行使をめぐるトラブル(争点)と問題点
   @   強制調査か任意調査、受忍義務と憲法第38条、立入権、調査理由の開示の問題は実際の調査に  おいてはあまり争点にはなっていない。東京税理士会のアンケート結果が示す通り調査理由の開示を  求めた場合78%開示しているにもかかわらず、納税者や代理人である税理士が開示を求めていない  場合が56・1%に達しており、調査立会については調査が重なったり、事前通知がなかったことを  理由に立ち会わなかったのが1.3%(42件)もあり、実地調査日数2日以上が76.5%もあり、  納税者の代理人である税理士が権利意識を持って税務調査に対応していないことが、その要因である  ことは否めない。

   A    主に争点になっているのは、事前通知(無予告の基準)、事前調査(進行年分、現況確認調査)  、反面調査問題である。これらはいずれも「必要があるとき・・」をめぐる裁量権の問題であり、そ  の基準がないかあるいは公表されていないことによる課税庁の恣意的、独断的裁量の横行がトラブル  の大きな要因になっている。また、基準がないことが、税務行政の透明性を欠き、納税者の処分予測  可能性を閉ざしていることになる。
    一般の税務調査においは、任意調査である以上、税務運営方針が示す通り「納税者の理解と協力  を得て行う」ことが大前提であり、質問検査権の行使に当たっては一定の限界があることを課税庁も  認めるところである。 そのため、平成12年の総務庁行政監察局の勧告以降、各種の事務運営指針  や各種の研修教材を発行している。その中には納税者にとって有効に活用できる事項もある。しかし  、現場の職員には、指示等の徹底や研修は十分には行われず、税務運営方針や指針は単なる心構え程  度にしか認識されていないのが現状である。その背景には件数・増差・不正割合・重課等のノルマ主  義による尻たたきに起因していることは言うまでもない。
     本質的問題としては、課税庁の質問検査権の行使における裁量権にあり方において、羈則裁量と  いう理念が欠落していることがその要因と考えられる。中村教授の論文を引用すると「税務調査にお  ける課税庁の裁量はもちろん羈則裁量とみなければならないと解されているのですが、この場合、ど  のようにしてそうした羈則裁量性を担保したらよいかというのが問題です。日本の場合には課税庁の  裁量といっても羈則裁量とみるべきだという論議が止まっているわけです。」と指摘しています。さ  らに「羈則裁量にしたがって税務調査や課税処分が進められることを税務職員の人事評価の方法を通  じて間接的に担保する」ことが必要であるとしています。

   B    課税標準の算定をめぐるトラブルの傾向

      イ 生活実態や担税力を無視した推計要件を満たさない画一的推計と過年分遡及(個人タクシー      6人自殺)

ロ 納税者や代理人の無知に付け込んだ法令等の恣意的解釈や認定
 (青色特別控除要件、必要経費の概念、役員報酬や専給否認、生計を一にする者への支払い)

    ハ 事実確認や否認根拠を示さないままでの調査額の提示

    ニ 青取、重課をちらつかせた調査額の提示と修正申告の強要

(2) 課税庁の調査手法に係る諸問題

(1) 税理士法改正に伴う税理士への事前通知の不徹底

(2) 臨場調査日数や調査場所の強要

(3) 恣意的な基準による無予告現況確認調査

(4) 調査選定理由が不明確な調査の増加

(5) 本人調査前での反面調査や記帳簿書等の持ち帰り

(6) 納税者の無知に付け込んだ調査展開と過年分遡及や課税処分

(7) 客観的な基準なき役員報酬・専従者給与や接待交際費等の否認の強要

(8) 青色申告取消、重加算税賦課をチラつかせた修正申告の強要

(9) おとり調査的な手法や「申述書」等の提出強要による重加算税の賦課

10) 税務運営方針等を無視した違法性のある反面調査の強行

 (11) 推計課税の要件を満たしていない推計課税と過年分遡及

12) 調査結果についての説明責任を果たしていない修正申告の慫慂

 (
13) 指導にすべき小額事案の修正申告の慫慂

14) 消費税仕入控除の否認の増加

(3)納税者や税務代理人の対応に係る諸問題

(1) 実地調査前おけるチェックやクライアントとの意思統一の不足

(2) 代理人としてクライアント擁護の自覚の不足

(3) 課税庁に対し主張や抗議することが不利益になると勘違い

(4) 法定届出の失念(専従者給与・消費税関係の各種届出等)

(5) 改正税法や選択(消費税の簡易課税等)事項の未対応

(6) 業種に特有な点検の不足

(7) 推計課税・青色取消・重加算税賦課などの要件についての認識の不足

(8) 従業員任せの決算処理

(9) クライアントの税法の無知にたった安易な決算処理

10) クライアントに対する説明不足

  

W 税務調査の実例と対応

事例1 関信局 A署 個人課税特官事案【測量士】

  納税者本人に対し、特官付上席調査官から事前通知あったが、顧問税理士に何ら連絡が無いので、税理士法第34条違反ではないかと抗議。調査官は「いままでも税理士に連絡したことは無い。税理士に連絡をしなければならないという研修を受けたことは無い」と回答。

(解説)税理士法34条は「当該職員は・・・当該租税に関して第30条の規定による書面を提出している税理士があるときは、合わせて当該税理士に対しその調査の日時場所を通知しなければならない。」としており、本件は明らかに税理士法に違反しています。ちなみに東京税理士会のアンケートでは5%が納税者のみの事前連絡になっている。

また、「税務調査の法律的知識」(平成17年6月東京国税局法人課税課発行、以下「新法律的知識」という)の解説では「調査法人に対して税理士にも連絡するよう伝えることは、税理士に対して事前通知をしたことにはならないと考えられるため、税理士に対して別途行う必要がある」としている。税務当局は申告書に税理士の記名・押印していても「代理権限証書」が添付されていなければ、代理権限があるとは解釈していません。

 事例2 東京局 B署 法人課税特別調査部門【パチンコ店】

   無予告により社長自宅、事業所、取引銀行に総勢12名がいっせいに調査に着手。当日顧問税理士は群馬県に出張だったため、対応できたのは30分以上経過してからではあったが、無予告現況調査に抗議するとともに、顧問税理士が代理権限を行使できない客観的条件があるので即時調査を中止するよう要請し、後日改めて調査を受けることした。しかし、それまでの間に事業概況と役員の業務内容について聴取されていた。また、翌日社長はじめ関係者から現況調査の実態について事情聴取したところ、@12人のうち身分証明書を提示したのは3名のみ、A社長や他の役員のいないところで従業員数名に質問をしていること、B まだ廃棄処分をしていない前日のホールの全てのゴミ箱の中身を、役員や従業員の了解を得ることなく持ち帰ったことが判明した。

 後日の実地調査において、上記3項目について事実確認を行いその事実を認めさせた上で、「明示の承諾」を得ていない違法な調査であり、「窃盗罪」にも該当するため、署長の謝罪と調査中止を求めた。その後3度の折衝の結果帳簿調査等は一切行わず、役員の病気期間中の報酬の一部否認で調査は終結した。

 (解説1)この事例は@無予告現況調査を行う基準が不明確、A税務代理権の侵害、B身分証明書の不提示、C質問検査の対象者の範囲の逸脱、C「明示の承諾」違反、D窃盗罪等の諸問題が内在しています。

当局の見解(新法律的知識)は、「質問検査を行う場合、時、場所、方法について、税法上特にそれを制約する規定が設けられていないことから、その方法等が明らかに不当とならない限り、税務当局の裁量に任されているものであり、特段の制約はない」としています

事務運営指針(H13、3,27)には「税務調査に際しては、原則として、納税者に対して調査日時をあらかじめ通知する」としており、事前通知を行うことが適当でない場合については イ、ありのままの事業実態等を確認が必要な場合 ロ、調査忌避・妨害、あるいは、帳簿書類等の破棄隠蔽が予想される場合と列挙しています。しかし、ありのままの事業実態が確認できない事業・業種とは具体的にどのようなものかは明らかにされていないし、調査忌避等を行う事業者であるか否かの判断基準も明らかにされていません。大多数の税務調査が事前通知を受けているのに対し、一部の納税者が、明確な基準が無いにもかかわらず、無予告調査を受けている事実は、納税者間の公平を欠いており、憲法14条の定め「法の下の平等の原則」反するというべきです。また、申告内容に疑義があり、調査忌避や妨害等が予想されることが明らかなのであれば、任意調査ではなく、令状に基づく強制調査によるべきであると考えます。

(解説2 身分証明書の提示については、法人税法157条に「・・質問又は検査する場合には、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があったときは、これを提示しなければならない」とし、事務提要では「調査担当者は、法人に臨場するときは身分証明書及び質問検査章を必ず携行し、これを法人代表者等に提示すると共に、「00税の調査」(質問検査章に記載されている税目)である旨をはっきり伝え、調査に対する協力と承諾を得た上で調査に着手する」しています。

(解説3)質問検査の対象者についての当局の見解(新法律的知識)は「法人税法の法人に質問という規定は、原則的には法人の代表者に対して質問すべきものと考えるが、法人の業務の執行は、担当部課等を定めて分掌させたり、特別な事項について代理人を定めて代理させることが通常であることから、代表者のほかに、代理人、使用人その他の従業者が質問の対象と成りえる」としています。しかし、一方で「従業員等へ質問する場合は、調査を円滑に進めるため、あらかじめ代表者の了解を得た上、代表者から協力するよう指示してもらう」としています。

(解説4)現況確認調査に対する調査対象者の承諾は 北村判決(京都地裁平成12225日)が示すとおり、いわゆる「明示の承諾」が必要です。北村事件の敗訴を受けて国税庁は「現況調査における留意事項について」(指示)を発遣しています。「新法律的知識」のコラム欄で、「明確に拒否しなかったので承諾したものと同じ」という考え方は誤りであるとしています。

 事例3 東京局 S税務署 特別調査官事案 【整形外科医】

   事前通知により開業4年で初めて調査をうけた。3回の実地調査には顧問税理士は一度も立ち会わず資格の無い事務員だけであった。初回の実地調査では納税者本人、及び経理担当者に対しほとんど質問も、帳簿等の検査を行わず4年分の帳簿を持ち帰った。その後納税者の承諾を得ることなく一方的にカード決済されたデパート・旅行代理店等の反面調査が行われ、さらに事業に関係のない妻名義のカード決済分についても反面調査が行われた。

   以後の実地調査においては、収入金額についての調査質問は一切なく、特別調査官は反面調査の実施を伏せたまま、「旅行は誰と行ったか」と質問、本人は「従業員と慰安旅行」と回答したところ、「嘘を言って隠そうとした」のは仮装隠蔽に該当し、重加算税対象であるとし、青色申告の取消をチラつかせ「申述書」の提出を強要された。さらに上記を口実に経費の各科目について自己否認を強要され、自己否認分の大部分を重加対象とされた。

また、何ら根拠を示さず接待交際費のうち自己否認した以外の1/2相当分と車両に係る減価償却費、駐車場代を否認。専従者給与についても妻の業務内容について一切の質問もなく、従業員の最も高い給与(25万円)を超える月額25万円は過大報酬であるとして否認してきた。その結果4年分で3,000円万円超(税額で1,800万円)の修正申告を慫慂され、応じなければ更正すると脅かされた。

   一方、顧問税理士からは4年間一度も必要経費について適正な指導を受けたことも無く、税務調査の立会いにあったては帳簿等の持ち帰りや反面調査に抗議することもなく、専従者給与について届出は月額50万円になっているにもかかわらず他の医療機関でも25万円が平均であると主張、更に「申述書」の案文を作るなど当局サイドに立った態度に終始し、2度にわたって「早く修正申告に応じないと更正される」と圧力をかけてきた(そのうち一度は解任されてから)。

   納税者は、納得がいかず税理士を解任し、新しい税理士の下で調査手続き、重加・青取、専給・交際費の否認基準等について抗議と釈明を求めた。その結果特別調査官は調査手続きに行きすぎあったことを認め、調査額についても自己否認した金額以外は否認する根拠が無いことを認め、納税者に謝罪した。

 (解説1)本件はU−1の調査の手続きに係る諸問題(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)、(11)、(12)に該当し、U−2の代理人の対応にかかる諸問題の(2)、(3)、(7)、(8)、(9)、(10)に該当する事例であり、部下を指導すべき立場にある特別調査官事案であることは、おおいに問題があります。

当局の見解(新法律的知識)においては「反面調査は適正・公平な課税を実現するために必要な情報を収集することを目的として、権限がある税務職員が調査のために必要と認めた場合に、質問検査権に基づいて行うものであり、納税者本人の了解を必要とするものではない。」としています。

しかし、税務運営方針(昭和514月)は「反面調査は客観的に見てやむを得ないと認められる場合に限って行うこととする」とその基本方針を述べ、さらに具体的事務運営指針(平成127月個人課税事務提要、137月法人課税事務提要)では「取引先等の反面調査を実施しなければ適正な課税標準を把握することができない場合」とその要件を定めています。更に、調査事務の概要(東京局平成18年7月)では、「反面調査は、調査対象者に対する調査だけでは課税標準の的確な補足が十分出来ない場合、又は課税標準の補充に関して疑問点や不合理点があってそれが明らかに出来ないと認められる場合に、その実態を確認するために行う裏づけ調査を言うのであるから、調査対象者の申告所得金額の真実性を疑うに足りる合理的根拠もないまま、只単に取引があるという理由のみで実施するようなことがあってはならない」と明確に記しています。

従って反面調査は課税庁の裁量でいつでも出来るものではなく、明らかにやむを得ない事情がある場合に限って出来るのです。「やむを得ない場合」とは、明確な規定はありませんが、納税者本人が調査を忌避している場合や帳簿書類等が無いか、提示を拒否している場合がこれに当たります。反面調査を行う場合「やむを得ない事情」を納税者に説明し了解を得ることは当然であり、本件は「税務運営方針」を著しく逸脱した不当で違法な調査といわざるを得ません。

(解説2) 重加算税の賦課基準(隠蔽又は仮装に該当する場合)、隠蔽又は仮装の意義については平成1273日国税庁長官の事務運営指針「申告所得税の重加算税の取り扱いについて」において、二重帳簿の作成、帳簿書類の隠匿・虚偽記載、架空名義取引等8項目の基準が明記されており、本件は単に会計事務所が決算時に事業主貸への失念であり重課の対象にはなりません。調査官はこのことを承知の上で重課を恣意的に賦課するがために、納税者が自ら不正をしたことを認める「申述書」の提出を強要したもので、極めて悪質な調査手法です。

(解説3)「青色申告の承認の取消しについて」(事務運営指針 平成12年7月3日)にその基準が明記されており、隠蔽・仮装等の場合の青取基準は、「隠蔽又は仮装の事実基づく所得金額が、更正等に係る所得金額の50%に相当する金額を超えるとき(当該不正事実に係る所得金額が500万円満たないときは除く)」明記されています。

また、取消見合せ要件として「その年分前7年以内の各年分につき、次のいずれをも満たし、かつ、今後適正な申告が期待できると認められるときは、青色申告の承認の取消しを見合わせる。@青色申告の承認の取消しをうけていないこと、A既往の調査による不正事実に係る所得金額又は不正事実に係る純損失の金額が500万円に満たないこと」と明記されています。従って本件は青取の要件に該当しないのです。調査官は解説2と同様に上記の基準を承知の上で納税者や税理士の無知に付け込んで修正申告の慫慂をしているのです。

 (解説4)青色専従者給与が相当であるかどうかの判定は、納税者の個々の実態に即し、次の状況を総合勘案して行うこととされています。(法57@、令164@)@従事した期間、労務の性質、提供の程度、A使用人の給与、同業・同規模類似の給与、B事業の種類、規模及び収益状況。本件は専従者の労務内容は全く調査を行わず個々の実態を無視し、Aの使用人給与のみを基準にしたもので、到底総合勘案した判定ではないことは明らかです。

 (解説5)必要経費の範囲について、法37@は、@総収入金額に係る原価、A収入を得るために直接要した費用、B販売費及び一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用となっています。本件の場合、納税者が必要経費の諸科目について自己否認した事項以外は個々の検査は一切行われていません。否認理由は自己否認したものが有るので他にも家事関連費が含まれているだろうという推測により二分の一を否認しています。本来税務調査は、経費を否認する以上個々の取引について経費に算入できない理由を説明すべきが筋です。

事例4 東京局 H署 個人課税統括官事案【ピアノ調律師】

事前連絡があって納税者本人と税理士が立会。最初は調査官だったが、帳簿類の貸し出しを拒否すると担当者が帰署。代わりに統括官が調査。調査の結果

 @ ピアノ調律代の現金収入分の計上漏れ

 A   ピアノ仕入れ分の期末計上漏れ未計上

 B   各年2,340,000円の専従者給与について否認

 C青色申告特別控除650,000円について否認し100,000円を認容

となり、修正申告の慫慂があった。これについて納税者側は@Aについて納得したがBCについて納得できないために、再検討を申し出たところ、1226日付をもって平成19年分〜17年分について更正処分を行ってきた。更正処分に付記されたBCにかかる理由は次の通りである。

B  ついての更正理由

 「同人に対して給与が支払われた事実を確認することができませんでした」(原文のまま)

Cについての更正理由

  「あなたが備え付けている総勘定元帳には、上記1の現金収入(上記@=筆者注)の記録がないなど  、事業所得の金額にかかる一切の取引の内容を詳細に記録しているものとは認められませんでした。  したがって(以下簡略)650,000円のうち550,000円は控除することができません」

 税務の現場では、青色申告の普及が一定程度落ち着いたことから、特典について青色申告を採用したいわゆる「ご褒美」から、法の基準に従って厳しく判断する傾向が強まっている。この事例で紹介した2つの更正理由は税務署が調査のポイントとしてマークする傾向にある。そのため最近では、専従者給与を支給した事実を明確にするため、銀行振り込みによる支給方法が増えている。その上で事例を検証する。

(解説) 事例は所法57条に規定する青色専従者の要件に該当し、同法57条Aの届け出も適法に行われ、同法57条@、施行令164条@に規定する判定基準をいずれもクリアしている。調査官は支給方法が現金であったため「支給した事実を確認できない」と判断した。その判断の依拠する観点は、調査当日の「この帳簿は税理士があとから入力して作成したもので信用できない」という発言に裏付けられる。

現金支給においては、日時、金額を正確に記帳すれば足り、事例の場合は何らの問題もない。現代のように、多くの納税者が会計事務所との関係でパソコン会計を行っていることからして、「あとから入力したから信用できない」などの発言は到底許されない。

 青色申告特別控除の問題は法律の適用を厳密に解釈する
ィ.現金出納帳の残高
に赤字がある ロ.現金収入の計上漏れがある などから所法148条、施行規則56〜63にいう「金額のすべてにかかる日々の取引を正確に記帳」したとは言い難い。しかし、「青色申告者の育成」は現在も生きていることから、同148条Aでは「税務署長は帳簿についての必要な助言ができる」と規定しており、横浜地裁H17年6月22日の判決でも「所法148条は青色申告者に指導助言する必要を言いっている。いきなり取り消しは更正のためのもので認められない」と判事している。このことからも当該事例の更正決定処分は裁量権を逸脱した不当な処分と言える。現実に現場の所得税事務を担当する複数の職員からも「そういう処分はあり得ない。審理担当からOKが出ることはあり得ない」という声も聞いている。

  ちなみに当該事案は、不服申し立てを勧めた税理士に対し、納税者が「巻き込まれたくない」として応じず、追徴税額の一部を税理士に負担させて終わっている。

 事例5 札幌局 N署 個人課税部門筆頭上席事案【ジンギスカン店】

   納税者は父親の家業(法人)を引継ぎ個人でジンギスカン店を経営していた。当店は生肉を客の前で捌き提供する特殊な技能を売り物にしており、その作業を生計はいつにしていないが同一建物に居住する父親が担当し、納税者は処理数に応じて外注費を支払っていた。父親は事業所得として各年確定申告をしていた。

無予告で実地調査が行われたが、顧問税理士の抗議でその日は中止となった。しかしその後の調査において、本人の父親は不正をしていないのだから税理士の立会いは要らないとして直接自分たちで対応することとなった。その後二人の上席調査官は7回に亘り実地調査を行った。その内容は、原始記録や帳簿等の検査や数量的な検討は全く行われず、二重帳簿があるのではないかとか法人時代より差益率が悪いなどと抽象的な調査に終始し、結果として法人時代の租税公課を経費に計上していたことくらいしか問題点は発見されなかった。しかし最後になって所得税法56条の規定を持ち出し、父親に支払ったが外注費は「生計を一にする親族に対する支払額」に該当するとして3年間で10,253千円の修正申告を慫慂された。本人及び父親は外注費を否認するなら父親の必要経費を認めてほしいと主張したが一切応ずる姿勢を見せなく、納得がいかないため押印を拒否した。後日更正処分をしてきたばかりか、父親の確定申告について所轄が違うことを理由に積極的に職権で減額更正をしなかった。

顧問税理士からの依頼を受け、当方で異議申立を行い、「生計を一にする」件では 認容されなかったが、所法56条後段の規定により父親の経費は全面認容、その他の調査の誤りも認めさせ、結果として本人及び父親の各年納税額はゼロとなり、実質全面勝利を勝ち取った。

 (解説)本件は納税者が税法の規定について知らないことを利用した、権力的かつ恣意的な増差・件数主義の典型的事例である。

事例5 東京局 T署 個人課税特別調査部門 【風俗業・デートクラブ】

  納税者は30年以上前から新宿で風俗業を営み白色で確定申告をしていたが、ある日夕方、数年前 から常連客であったAが他2人の調査官ともに無予告により現況調査が実施された。調査官らは調 査着手前に調査費(公費)を使い内観調査(デート・買春)を実施していた。3ヶ月以上にわたる 調査の結果、所得税については、たまたま調査年度の期間は本人の妻と母が癌で闘病し、本人は看 護のために店に出られないため経営を従業員に任せ家賃分として月額30万円もらっていたことが判 明し、本人はこれを認め修正申告に同意した。ところが修正申告当日調査官から初めて消費税が無 申告であるとの指摘を受け3年分の税額で約1,000万円超を申告するよう強要された。本人は納得い かないため消費税については押印を拒否した。その後2月末に決定通知がおくられてきた。その内 容は本人名義の口座に振り込まれた金額を課税売上と見なし、仕入控除は一切認容しないものであった。

   本人は3箇所の税理士事務所に相談に行ったが勝ち目がないとして断られ、最終的に当方に持ち込まれ異義申立を行った。異議申立の主な理由は、@調査手法に違法性があること、A所得税と消費税の課税標準に整合性が無いこと、B調査による課税売上には預かり金が含まれていること、またその結果基準期間の売り上げが3,000万円以下になり、各年課税事業者に該当しないことであった。

   異議決定は(署側が局と相談し)訴訟に耐えられないとして全部取消となった。

(解説)本件は、公費を使った違法行為をもとに調査が実施され、前述のUの1の(3)(6)、(11)、(12)、(13)に該当する調査である。


事例6 関信局 T署 個人課税部門一般事案 【内科医院】

   納税者は家業を父から引継ぎ4年目で初めて税務調査を受けた。記帳や決算は開業当時から医療業界に精通したエキスパートと標榜する税理士に依頼していた。実地調査は半日程度で上席調査官は細部にわたって原始記録等の検査は行わず、医療機関の付表の添付がないこともあり、収入金額について決定点数等から見直すこと、経費についても自発的に見直すよう税理士に指示して帰った。

 税理士が見直した結果3年間で約1,700万円の申告漏れがあると調査官に報告すると共に本人にも伝えられた。しかし、本人や妻は売上を除外したり、不正に経費を付け込んだ意識は全くないため、自ら医療スタッフとともにその誤差の解明に当たった。その結果400万円程度誤差を圧縮することが出来た。一方調査官と税理士からは補正後でよいから早く修正申告をするよう求められた。本人はそれにも納得できなく友人を通じ当方に相談を持ち込まれた。

 当方で念査したところ、保険点数計算の仕方、自由診療と保険診療の混在、収入時期の計上誤り、会計年度ごとに処理基準を変更、自由診療の売掛金を翌年雑収入計上、明らかな値引き分の処理未済等々大部分が顧問税理士のミスであることが判明した。結果は当方が新たに発見した収入の計上もれも含め533万円の修正申告で決着した。なお、調査官に対し税理士任せにして増差が出ればよいという調査は問題であると抗議した。  

 (解説)本件はUの2の(1)、(2)、(4)、(6)、(8)(9)、(10)に該当する。